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V65 再生記 <5>

V65_015.jpg
 

今回はトランスミッションの組み立てです。
  
画像はレイシャフト(メインシャフトから駆動を受けて、減速してドライブシャフトに伝達する)です。図面はV65シリーズのシャフト・1stドリブンギア(右端)・シム・ウェービングワッシャー・ベアリングの位置関係が3種類あることを説明しています。
 
単純にパーツリストだけ見て判断すると現物との相違に戸惑ってしまうので要注意です。パーツリストは一般に初期型のカタチに沿っているからです。このミッションは3rdバージョンでした。
ちなみにこの画像のもっとも右側に位置する1stドリブンギアが、再生記<3> で書いたギアです。部品がそろったので組み立てにとりかかりました。
 
そろそろ組み立ても始まって、その様子も少しづつご紹介しています。実際、今回のようなトランスミッションの分解・組み立てなどされる方はそういらっしゃらないでしょうが、モトグッチメンテナンスブックでは触れられなかったモデルですので、違いなどを一部でもご紹介できればと考えています。


 
V65_016.jpg
 

この350・500cc・650ccそして750ccまで使われたトランスミッションですが、エンジン型式がPを頭文字にしていたのでP系としましょうか、同時期の850cc・1000cc(同様にV系)とは異なり、短いクラッチシャフトで1次減速をして、3分割のケースで構成されています。
 
シャフトへベアリングを圧入、ケースへ組み付け、などなど。作業工程をいちいち細かく書きませんが、何点かだけ・・・・・。
 
シフトリターンスプリングも交換します。この組みつけはV系と異なり、足を開いて組みます。メンテナンスブックはV系を例に説明していますので注意してください。
ところでこのスプリングですが、特に異常が認められないのに交換するのにはわけがあります。あくまでも私の経験則なのですが、中古車納車後など、オーナーが変わったあとになぜかこのスプリングが折れることが多いのです。このスプリングが折れるとシフト操作に支障をきたすので、新しいオーナーの方にとっては買ってすぐにとんでもないトラブルが生じることとなります。
 
この現象はなぜ起こるのだろうと考えましたが、もしかしたら作動速度の差に原因があるのではと思いいたりました。たとえばシフトペダルの操作時、すばやくガチャっと入れるか、押し込むようにコクッと入れるか?スプリングにとって、馴れ親しんだ作動速度があって、オーナーが変わったあと、それとは異なる速度の入力があるとそれが金属疲労につながって、あげく折れてしまうのでは?????スプリングにそのような"くせ"がつくのか?専門家に聞いてみたいところです。
 
ベアリングのケースへのかん合時にはロック剤を塗りますが、この場合に限らず、どこに塗るかによってロック剤がはみ出る方向が異なります。ケース内に落ちたり回転部位にかかってしまったりしないようどの部品のどの部分に塗っておくのか?という注意が必要です。
 
また画像ではさらにポンチでベアリングを押さえています。強い駆動力がかかるので、ケースとのかん合が甘いとベアリングにクリープ(現象)が生じて、ベアリングのアウターレースがシャフトの回転と反対方向に回されてしまうのです。
ある方向から見たとき、シャフトが時計回りに回っているとすると、ベアリングのインナーレースも一緒に時計回りに回り、ころ(ボールやローラー)のひとつひとつは反時計回りに自転します。そうすると、ころの相手側であるアウターレースにはころによって半時計回りの方向に応力がかかります。もしケースとアウターレースのかん合が甘ければ徐々に反時計回りに回されてしまい、さらにケースの変形を招いてしまうのです。ちょっと長い説明になってしまいましたが、イメージしていただけましたでしょうか?

 
 
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上の画像はクラッチシャフトです。ポンチが写っている画像のあいているベアリングに収まります。中をクラッチプッシュロッドが通っているので、オイルシールが必要になるのですが、問題はその向きです。ついつい指で持っているオイルシールのように上向きにしたくなってしまいますが、このシャフトでの「ケースの外側」は下ですので、下向きにつけなくてはなりません。
 
もしこれを間違えて組んでしまったら・・・・・・・走り出すとミッションオイルが漏れ始め、ここから出たオイルはすぐにクラッチプレートを濡らしてしまうので、クラッチが切れなくなったり滑ったり、再分解になります。オイルシールだけではなくオイルを吸ってしまったクラッチプレートも要交換となりますので被害甚大なのです!!!
 
クラッチシャフトには(アウトプットシャフトも)Oリングをかけるのも忘れずに。最後にオイルシールのリップが当たるカラーを入れてロックナットを締めます。カラーは下に内側のオイルを止めるOリング、外側にオイルシールが当たるのでシリコングリスをたっぷり塗りました。
 
ロックナットをロックして、ケースが組みあがりました。


 
V65_018.jpg
 

ついでクラッチプッシュロッドも組んでおきましょう。
まずはパーツリストの画像から。このプッシュロッドの向きは逆です。なぜわざわざ逆に書いたのか不明ですが、逆です(笑) 細いほうがクラッチ側になります。太いほうは後ろのレバー側のカップに入るので、間違えて組もうとしてもカップとロッドの径の差に違和感を感じて気づくかもしれませんが。
 
私のプッシュロッドはパーツリスト「A」のオイルシール(既出の小さいオイルシール)のリップの部分で偏磨耗が起きていました。・・・・・・・交換です。ロッドが2本並ぶ画像では右のものが後年式の新しいもので、レバー側のカップに入る部分に螺旋の溝がきってあります。回転によってカップの奥にオイルを送り込めるようになっています。またこの画像では見られませんが何箇所か焼きが入れられて強度を与えられています。こうした改良の恩恵も受けられるので要交換部品の追加追加あいつぐ追加も喜んで・・・・・受け入れることとします。
 
ボール盤の画像はプッシュロッドをコンパウンドで磨いているところです。特にオイルシールが当たるエリアと、パーツリスト「B」の段差の部分です。
プッシュロッドは細いほうから差込み、オイルシールに太いほうが入るまで入れなくてはならないので、オイルシールリップが段差を通過するときに傷まないよう、段差に「少しでも丸くなれ!」と念をこめながら磨きます。
 
そして、グリスをたっぷり塗って、カップやスラストベアリングとともに装着。トランスミッション完成となりました。
 
 
 
 
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さて、ここまでの画像をご覧になって気づいた方はかなり少ないと思いますが、まずこのシリーズの前提として、私が再生しているモトグッチは650ccだということ。であればトランスミッションは650cc用のものであるということ。このトランスミッションは外観は350から750まで同じであっても、中身は排気量に応じて2つに分かれているのです。この年代で言うならば350・500・650ccと3種類に。
 
先にクラッチシャフトと紹介した画像のうち、クラッチプレートとともに撮影したものがありますが、違和感を感じませんでしたか?クラッチシャフトのボス、クラッチプレートに収まる部分ですが、350・500ccのものは細く、650ccのものは太いという基本認識がありました。
ところが、今回の整備を始めるにあたり、ボスが細いほうであることが判明しました。


 
V65_019.jpg
 

650cc用のクラッチプレートを置いてみました。シャフトより受け手のクラッチプレートのほうが径が大きいのがわかると思います。
 
しまった!!なぜかわからないけど小さい排気量のトランスミッションだったのか!?と当初思っていたのでしたが、よくよく調べるとギア比は650ccのものだったのです。もう少し細かく書くと、ギア比は650cc、クラッチボスは350〜500cc、1次減速比は500ccのものでありました。元になった650フロリダのデータとは異なっていて、これはもしかしたら650ccを造り始めた初期〜過渡期のかも?とも思いましたが、そもそもフロリダ自体が650ccシリーズのなかでは後年式にあたるのでそれも違うようです。
 
謎が解消できないまま、このトランスミッションを使うかどうか悩みました。なぜなら、650cc発売当時にクラッチシャフトのボスが太くされたのは、排気量アップに伴って増大したトルクに対応するためにほかならないからです。ちなみにクラッチシャフトを太いものに換えることも考えましたが、それに伴ってベアリングも大きくなるのでカバーの交換か加工が必要になってしまいます。
結局、このトランスミッション自体は20000kmほど650ccのエンジンとともに走っていたのは間違いないので、現状特にトラブルが起きていない様子から、このまま使ってみることとしました。
 
果たして後年、トルク差に負けてこの部分にトラブルが生じるのか?もし壊れてしまったらイタリアのモト・マフィアにお願いして中古の正真正銘650cc用のトランスミションを入手することにします。


 
 
 
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