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カムギアトレインというもの

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中古のV10チェンタウロです。このほど買っていただいたお客さまが、以前からお付き合いさせていただいていた方だったこともあり、ひとつお願いをさせていただきました。それは以前から気になっていたチェンタウロのメカノイズを減らす方法のテストです。実は何台かのチェンタウロで年々メカノイズが大きくなっていくのを目の当たりにして長く気に病んでいたのでした。
 
チェンタウロあるいはデイトナのアイドリング・低回転時に発生するガッシャガッシャガッシャガッシャというメカノイズの源はオーバーヘッドカムシャフトを駆動するために、従来のカムシャフトがあった場所に位置するアイドラーシャフトを回すギアトレインにあり、ノイズが徐々に大きくなっていった原因はこのギアがアルミ合金(以下アルミ)で作られていたことにあります。
 
以下、このエンジンにおいてアイドラーシャフトに組みつけられたギアはアイドラーギアとでも言うべきなのでしょうが、他機種エンジンとの比較上、この稿では総じてカムギアと書かせていただきます



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この画像は以前持ち込まれたルマン3に取り付けられていたアルミカムギアセットです。よく歯面を見ていただけたら荒れているのがわかると思います。いっとき一部でもてはやされたこの部品ですが、ご覧の通り耐久性はありません。
 
とある自動車メーカーのエンジニアから「アルミのギアを使える場所というのは、プラスチックのギアでも済むような場所」と教えていただいたことがあります。アルミカムギアを着けた方は一度チェックされてはいかがでしょうか?磨耗が進んでいたら、外したチェーンスプロケットをお持ちだと思いますので戻せばいいのですが、その際はチェーンとチェーンテンショナーはぜひ新品を使ってください。



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さて、最初の画像にあるタイミングベルト・プーリー・ベルトハウジング・カバー等々をはずしていくとギアが現れます。左画像の真ん中に位置するのがクランクギアですが、耐摩耗性をあげるためにここにはアルミを使っていませんので、前述のアルミ対アルミの社外品カムギアトレインよりはだいぶマシになっています。

ギアをはずすと右画像のようになります。上部のギアのようなものはアイドラーシャフト(OHVエンジンにおけるカムシャフトの位置)に取り付けられていて、これと左シリンダーの前にあるセンサーによりエンジンの回転位置を検出しています。



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タイミングチェーンを組み付けました。

チェーンは伸びが生じるのでカムギアトレインのほうが有効・・・・などと言われていたような覚えがありますが、ギアにアルミを使うならそれは大きな間違いです。チェーンは確かに伸びます。ですが実際にチェーンの伸びがエンジンの作動に影響するのはクランクスプロケットとカムスプロケットのあいだに位置する、上の画像で言えばわずか5ピン分なのです。もちろんチェーンの伸びやチェーンテンショナーの張力の程度に左右されますが、そのあたりがきちんとしているならば磨耗が進んで音が出るようなアルミ製ギアによる誤差に比べたらわずかなものであると言えます。
 
たしかに一般のオーナーさんの印象としてもギアトレインのほうがメカニカルにそして高性能に見えるでしょう。ですがやるならばモトグッチもかつて初期のV7Sportに使っていたようなスチール製のカムギアにするべきでしょう。



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タイミングカバー・プーリーなども取り付けて、ベルトを張りました。
もうひとつあらためて書いておきたいのは、このシステムがヘッドのカムシャフトを駆動するものだということです。
 
カムシャフトは回転を与えられてカム山によってバルブを押すわけですが、カムの頂点を越えたあとはバルブスプリングの反力によってカムが押し戻されるため回転速度が増します。スムーズに回っているように見えて、実はカムシャフトの回転は脈動しています。ですからカムギアの歯面は順方向ばかりではなく逆方向のストレスも受けているのです。最初に書いた「低回転時に発生するガッシャガッシャガッシャガッシャというメカノイズ」はこの歯面両面の磨耗が進んでバックラッシュが過大になったためだと考えられます。またアルミ製であるがゆえに音がより響いていることも考慮すべきです。



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いざ完成したチェンタウロ、エンジンをかけてみると「ドゥルルルルル」と迫力はそのままに落ち着きのある期待通りの音になりました。今回の整備はこちらがお願いしたことなのでリパラーレの負担になりましたが、出費以上の成果を確認できてよかったです。現在このチェンタウロは納車を待つばかりとなりました。
 
ちなみに、チェンタウロやデイトナののちに発売されたコンペティションモデルMGS01では、実はカムギアではなくチェーンが装着されています。モトグッチ社でもアルミ製カムギアのデメリットが確認されたのでしょう。そもそもモトグッチ社は長い経験の中で、やって良いこと悪いことの蓄積があるメーカーだと思っています。デイトナ開発のころモトグッチ社は不調を打開すべく社外のアイデアを取り入れたりと努力をしていたのですが、もしかして古きエンジニアの意見をあおぐちょっとの余裕が無かったのかな?などといらぬ想像を巡らせています。

*この稿の内容についてはテクニカルレポート12で図解とともに解説していますので、そちらもぜひご覧ください。 
 
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