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時代の波

ついこのあいだ、ハイエースの車検をお願いしてるディ―ラーの担当の方から電話が入って、次回車検の話かと思いきや「ハイエース売るご予定はありませんか?今、品不足でして・・・・」とおっしゃる。それほど今の新車不足が深刻なようです。それはいいのですが、入手難なのにハイエース売っちゃったらウチが困るではないですか〜!?
 
コロナ禍から生産工場稼働停止による供給不足とテレワーク等の普及によって半導体不足が加速してしまい、自動車生産にも影響を及ぼしているのはご存じのとおりですが、それに加えて現在戦争中にあるウクライナには世界的にも生産量の大きな比率を占めるワイヤーハーネスの工場があるのだそうです。そのことがエンジン自動車(変な言い方ですが・・・)からEVへの移行を早めるとも言われているとのことなのです。なぜなら、ワイヤーハーネスの再増産を待つよりも、すでにワイヤーハーネスのモジュール化をして生産を始めているEVへの切り替えを早めたほうがいいからということなのです。はて、ワイヤーハーネスのモジュール化とは具体的に何をやってるのだろうと探してみましたが「何をこう」と示しているものを見つけることはできませんでした。
 
ワイヤーハーネスは自動車にとって、人間に例えれば神経(指令、情報)と血管(給電)なのかなと思います。バイクのワイヤーハーネスの見た目は骨格標本のようにも見えます。バッテリーあるいはヒューズボックスから各装置にそれぞれ給電して、ECU搭載車であればECUから各装置各センサーをつないでいます。そのメインとなるハーネスはまるで脊椎のようです。

 
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850ルマンのワイヤーハーネス(新品)
 

これのモジュール化ってやはりワイヤレスにしてそれぞれを独立させることでしょうか。ものすごく矮小化してしまってるかもしれませんが例えばブレーキランプを点けるのに、従来はバッテリーからヒューズボックス〜イグニッションスイッチ〜ブレーキスイッチと通った電流をテールランプまで届けるということを電線上でしていましたが、ブレーキスイッチがONになった情報を無線で飛ばせば済みます。電源もEVならどこからでも取り出せそう(想像です)なので、ブレーキランプなど各パーツが近いところからもらえば済むのでこちらの配線も短くて済むでしょう。なのでこの場合たとえばテールランプやリアウィンカーなど近いものを一体として共通の指令受信機と電源を持つ独立した構造にすることがワイヤーハーネスのモジュール化・・・・・と思いましたが想像です。すみません。
 
4輪車では1台に使う銅線の長さが数キロにもなるとか・・・・・。そうすると重量面でもコスト面でも無くすメリットはありますね。それにワイヤーハーネス製造はいまだ手作業に依存しているのだそうです。それは生産効率が悪そうだ。モジュール化すれば生産工場のオートメ化も容易にできるでしょうか。ちなみに850ルマンIIはメーターパネル裏の一部に限りますが配線の代わりにプリント基板を使ってスリム化しています。これを拡大したら脱ワイヤーハーネスが進んだかも?でも脱ワイヤーハーネスはそれまで世界の自動車メーカーがお安く使ってきた(想像です)労働力の雇用を奪ってしまうので、もしそうなってしまうなら、いずれ来る時代の波とはいえなんとも切ないものがあります。
 
もうひとつの半導体不足のほうですが、こちらはものすごい技術革命でも起きて代替品ができないことには、じっと生産態勢が落ち着くのを待つしかなさそうです。モトグッチリパラーレは新車販売していませんので販売車両不足による影響はありませんが、部品の供給が滞るのは困ります。そこで私のカリフォルニア(1986年)やV65スクランブラー(1990年?)に半導体はどれだけ使われてるのかあらためて考えてみたら、
 
IC式ボルテージレギュレター
ダイオードを使っているレクチファイヤー
以上!
 
でした。とっても少ないっ!(笑)


 
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左:ボルテージレギュレター 右:レクチファイヤー
どちらも1980年代のものです
 

ちなみにレクチファイヤーの故障〜交換はあまり経験がありません。一方レギュレターのほうは多くはないですがあることはあります。ですので私の場合は半導体不足で入手難になると困る部品はレギュレターのみですね。いや〜、なんだか古臭いバイクでよかった・・・。しかもICレギュレターが入手できなくても接点式レギュレターというのがありまして、それを探し出せばなんとかリカバリーできるかもしれません。ついでに書きますとほかに起きそうな充電系部品の故障は本当にたま〜にですがオルタネーターのインナーローターの断線か短絡があるくらいです。
 
部品といえば以前は木箱にどっさり、志賀と2人でようやく動かせる、本当ならフォークリフトだよねという量の部品をイタリアから取り寄せていました。当時モトグッチから送られてくる箱には「Centro Ricambi」と印刷してあって、私たちは「リカンビ」という名のモトグッチの子会社かなんかなんだろうというぐらいの認識でしたので、イタリアに行った際も「リカンビに連絡とってもらって・・・・・」などと話していましたら通訳の方が目を丸くして「リカンビって部品という意味なんですけど・・・」と、 つまりチェントロ・リカンビってのは部品センターのことだったんですね。そんな笑い話みたいなこともありました。
 
昨今ではメールで手軽に発注できるし、急ぎの際は割とすぐに小口で送ってもらえる。これも時代の波ですね。ただしこのウクライナ戦争後は物流網のゴタゴタもあったようでどこで滞っているのかなかなか届かない部品がありました。それも沈静化した(リパラーレでの感触)と思った6月のはじめころにオーダーした部品がいつまで経っても届かない。あまりに遅いので半月過ぎたころ問い合わせたら、なんとイスタンブールの空港で放置されていたようだったのです!まさかまだEU圏内にあるとは!?載せ替えは飛行機がロシア・ウクライナ上空を飛べなくなっているので迂回のためやむを得なかったのでしょうが、なんで引き継ぎの便にすぐ載らなかったんでしょう。6月末に日本の空港までは届いたらしいです。あとはここまでの配達を待つばかりです。(すでに7月1週めに届きました。遅筆なものでタイムラグが生じてしまいました・・・)
 
配達と言えば、現在リパラーレでは基本的に車両の引き取りや配達を行っておりません。何年前だったかさだかに覚えておりませんが、整備振興会2輪車支部の会合でオートバイ屋(整備業者)は有償の車両搬送はできないというお話が出たのです。料金をいただいて輸送ができる輸送業ではないからです。オートバイ屋がお客さまのオートバイを運ぶのに何の疑いも持っていなかったのですが、これも時代の・・・・・波と言ってはいけないのでしょうね。なにしろ元々ダメだったのでしょうから、たぶん。
今回このブログでこの件に触れさせていただいたのは、この話をすると驚かれるお客さまが多くいらっしゃるからです。でも世の中的にはですが、車検場で会うバイク屋仲間にも改めて聞いてみれば、ほとんど引き取り&配達はしないといつの間にやら切り替えていました。オートバイを輸送中に事故に遭ったら載せていたオートバイの保証は受けられなかったという話も聞きましたので、どうかご理解いただきたいと思います。車検が切れて乗れない場合はレッカー業者さんをご紹介しています。オートバイ専門のレッカー業者さんが増えて価格もかなりお手軽になりました。走行中の事故・故障はJAFやそれぞれご加入の保険会社のレッカーサービス等もご活用くださいませ。
 
私の場合は整備士でもありますし、なんとなくですが他人に弄られたくないという偏屈な思いもありまして、出先でトラブルがあってもなんとかして自力で帰ってきたいと思ってます。幸い私が乗っている古くさい2台はコンピューターなぞ積んでませんし、点火系になにかあっても同時に左右両方の火が飛ばなくなることはまずありませんし、事故を起こさなければ、いきなり決定的に走れなくなることはほとんど無いでしょう。
とりあえず自分に起きることで想定しているのは、日頃メンテナンスを欠かさなかったとしても予測しづらい電気系統の故障です。ロングツーリングの出先で、先にも触れましたボルテージレギュレターがもし出先でパンクしたらこんなことをしてみようかなと考えていたことを、この際いい機会なので実験してみようと思います。


 
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オルタネーター
 

上の画像は80〜90年代のモトグッチに乗ってる方にはなじみ深いオルタネーターです。DF端子に給電するとブラシを通してクランクシャフトと共に回っているローターコイルに電気が流れて磁化し、外側のステータコイルに交流電圧が発生するという仕組みです。DF端子に電気を送るのがボルテージレギュレターで、その電気を励磁電流といいます。もしボルテージレギュレターが故障したら、代わりにここに電気を流すことができれば発電してくれることになります。(モトグッチの場合はローターコイルのプラス側をコントロールしますが、逆にアース側をコントロールする場合もあります)
 
実はSUZUKIのGT750発売時に若いころの志賀が技術講習会に行って、このSUZUKIで初めて採用された励磁式オルタネーターの説明を受けたそうです。それまで日本のオートバイではほとんど採用されてなかったそうで、「やっとこんな高級品を使うようになったか・・・」と思ったそうです。四輪自動車では一般的なシステムなのですが、四輪では一体の発電機・整流器・レギュレターであったのを分割して小型化できたことや、250〜500〜750と排気量があがって車体も大きくなって採用できるようになったのかもしれません。
 
その講習会で充電不良時のトラブルシューティング、ボルテージレギュレターの故障を確認できる手法として、ローターコイルにバッテリーから直接励磁電流を流すという方法が紹介されたそうです。そうして発電が始まるようならばレギュレターが働いていないと判定できます。ただしそれをやり過ぎるとローターコイルが焼ききれてしまうので注意してくださいという注意も受けたそうです。なので今回まず故障のない現車で励磁電流の電圧を確認してみたところ、エンジン停止状態で5Vとなっていました。



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試作5V電源キット
 

そこで夏休みの宿題工作みたいですが、笑 エネループ4本直列で想定4.8V実測5.3Vの電源を作ってみました。レギュレターがパンクしてもこういう装置を使ってオルタネーターに励磁電流を流したら充電できるのではという実験をすることにしました。
 
なぜ低い電圧でチェックするのかというと、通常であればオルタネーターの発電量はすぐにバッテリー電圧をオーバーするので、ライダーが走りながらコントロールできないだろうという予想があったからです。
ふだん充電の様子を電流計でチェックをする際、健康なバッテリーでヘッドライト等がOFFであれば3000rpmも回すとボルテージレギュレターが設定電圧に達してカットオフしてバッテリーへの過充電を防ぐのですが、3000rpmというのは市街地を走っていてもすぐに達する回転域なので、もし12Vも給電したら、恐らくかなり短い周期でON/OFFを繰り返さないとならず、それは手動では不可能なレベルなんじゃなかろうかという予測なのです。この実験でローターコイルやバッテリーを壊してしまっては痛すぎますので用心深く5Vでやってみました。その実験の様子は動画にしました。以下のリンクをご覧ください。


 
「オルタネーターによる充電装置、乾電池から励磁電流を流して充電させる実験」
 

自宅前でやったもので、あまり高回転まで&長時間は回せない状況でしたが、こんな装置でもバッテリーに充電できる程度の発電ができることはわかりました。ポジションランプ点灯時は4000rpm回すと、ヘッドライトまで点けると5000rpmで充電が始まるようでした。充電が始まるというのは言い方を変えるとバッテリー電圧より高い電圧が発生したということになります。
 
ただしランプ等を点けない、負荷のかからない状況でも、5000rpm以上回してたところで、おおむね12.5V程度までしか電圧があがりませんでした。回転があがれば単純に発生電圧もあがると思っていたのですが・・・。本物のボルテージレギュレターはバッテリー電圧をあげてゆくとそれにつれて励磁電流の電圧も5Vから6V〜7Vとあがっていったのでそのようにしなければならないのか、それとも太く長い銅線で構成されているローターコイルに対して乾電池のパワーではこれが限界なのか、ちょっと私にはわからない領域できちんと書けなくてすみません。
 
ちなみに実験前は5.3Vあった電源キットの電圧ですが、実験後は5.1Vに落ちていました。実験中はほんの2〜3分の通電時間だったと思いますから、このキットでツーリング先から帰ってくるというわけにはいかないようです。
まあでも、私と同様古くさいモトグッチに乗ってらっしゃるかたには朗報があります。だいぶ昔ですがお客さまがツーリング先のたしか浜松から電話をくださって、チャージランプが点きっぱなしなんだけどとご相談がありました。恐らく充電系の故障なわけですが、話し合った結果、お客さまは可能な限り自走で帰ってみると決断されたのです。そしてすんなり帰ってきました!!!「そうか、満充電のあのバッテリーなら浜松から帰って来れるのか!?」と感心しました。もちろんなるべくヘッドランプを点けないとか、休憩を最小限に減らしてセルモーターを使わないなどの対処も必要でしたし、軽自動車と同じサイズのバッテリーを積んでいたからだろうなと思います。バッテリーが小さい現行モデルだと走行可能距離はもっと短くなるのでしょうね。まあいまどきは時代の波(?)で視認性をあげて事故防止するためヘッドランプは常時点灯となっているくらいなのですから”なるべく点けないで”というのもケシカランことなのかもしれませんが。
 
時代の波というものはある程度先も読めて、ゆるやかに寄せてくるのを眼で追えるようなイメージを持っていました。しかし2009年に書いていたコラム「最後の一滴はどこで?」ではガソリンの枯渇を心配していましたが、いつのまにかガソリンエンジンの生産終了という波がすぐそこまで寄せてきてしまいました。単に私が鈍いだけかもしれませんが・・・。
ところで波の中には「ヨタ波」というのがあります。昔、釣り雑誌かなにかで読んだのですが、台風などの影響で、波が一定に寄せてきているように見えて何十回(回数はちょっと覚えてませんが)に1回は少し大きい波が来る。さらに何百回(何千回?)に1回は予測不能の何倍も大きい波が来ると言います。これをヨタ波というのです。ロシアによるウクライナ侵攻もヨタ波のようなもので自動車業界にも余計な波を届けてしまいました。少しでも早く、良いかたちで収まりますように。

 
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