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Le Mans 1000 のカムシャフトは850 Le Mans の [ENGINE POWERING KIT ] として以前より販売されていたものです。
このカムシャフトの場合は、850 Le Mans のカムのベースサークル直径を小さくする事により相対的にカムリフト量を大きくしバルブの開弁時間(バルブ作動角)を大きくしています。

しかし、ベースサークルが小径化してバルブプランジャーの下を移動するカムの円周距離が少なくなる事により、バルブをリフトしてからバルブを閉じるまでの間カムに接触しているバルブプランジャーのスムースな作動が充分な緩衝距離が取れずに、少々バルブシステムのノイズが大きくなりました。 云わばリフト量を上げた事によりバルブノイズ増大の見返りとして、バルブのバルブ作動角(開弁時間)を広くできLe Mans 1000 がハイパワーを得る事が出来る条件の一つとなりました。

尚、一般にINバルブとEXバルブのオーバーラップが大きいほどハイパワーを狙ったスポーツ性の高いエンジンといえます。
Le Mans 1000 のバルブタイミングはオーバーラップが60度と大きく(850 Le Mans は40度)又、排気タイミングを下死点前58度からと早く設定し高回転域を重要視したものですので、低回転域では排気タイミングが早過ぎる為トルクの低下を招きます。 この問題を解決する為にトランスミッションの下部へ排気脈動を利用したエキスパンションチャンバーを設けました。  
このシステムは集合マフラーとは全く異なるもので、簡単に説明しますと、低回転域ではEXパイプからの排気ガスがエキスパンションチャンバー部へ達するとEXパイプ内よりエキスパンションチャンバー内部の容量が大きい為そこで排気スピードが落ちます。さらに、排気ガスが流入してエキスパンションチャンバー内部の圧力が上がる為排気ガスの流れを押さえ、間接的に排気開始タイミングの早過ぎをカバーすると同時に、排気行程時のオーバーラップによる新気吸入ガスの吹き抜けをも防ぎ低回転時のトルク不足を補っています。 即ち、低回転域の排気脈動の排圧反転を利用したシステムです。 エンジン回転数がさらに上昇するとEXパイプ内全体の排気スピードが上がり、エキスパンションチャンバーの影響を受けずにそのままサイレンサー部へ向かって排気されます。
このエキスパンションチャンバーの容量は大変重要で容量の大小によりカバー出来るエンジン回転域が変化する事です。(このシステムはDAYTONA やSport 1100 : V11 Sport などの他のモデルにも採用されています)       
又、このエキスパンションチャンバーのもうひとつの作用で排気音の高音部を抑える効果もあります。



さて、ロッカーアームとバルブステム間のバルブクリアランスはピストン位置を圧縮上死点にして調整しますが、その時INバルブ・EXバルブの両バルブプランジャーは緩衝距離(部分)を含むカムのベースサークル部付近に位置しています。 INバルブは、圧縮上死点前120度(カムシャフトでは60度)前に閉じます。 (MOTO GUZZI が発表しているLe Mans 1000 のバルブタイミングはバルブが1.0mm 開弁している時を表
示しています。 ですから実際には発表数値より早く開き始め、発表数値より遅く閉じます。)

まず、INバルブはこの圧縮上死点の時にだけクリアランスがあれば良いのではなく、最大進角点火時期の上死点前34度の時には燃焼が始まりますので,既にこの時に温間時の各パーツが熱膨張した状態でも、バルブがバルブシートに完全密着出来るバルブクリアランスでなければなりません。 しかし、EXバルブに比べ、吸入行程の度に新気吸入ガスにより冷却されますのでバルブクリアランスの数値はEXバルブよりは小さく設定されています。

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