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呼吸が命〈1〉

 非線形プーリーの特性を前項で説明しましたが、それは当然の事ながら実走行でのコントロールに何らかの寄与をしている筈です。アクセルグリップの動きが非線形プーリーを通してエンジンにどんな指令を与えているのか知らなければなりません。
 そこでグリップやプーリーからちょっと離れて、<グラフ2>には 2000/3000/4500/6000/7500rpm の各回転数毎にバタフライ式スロットルバルブ(以下スロットル)開度に対する1 サイクル当たりの吸入空気量およびエンジン発生トルクを模式的に示します。<グラフ1>同様、スロットル開度と吸入空気量の関係は車種により異なるため単位をパーセントで示しました。このグラフを見て、スロットル開度90%での2000rpm なんて有り得るのかと疑問に思われる方もいらっしゃるでしょうが、すごい上り坂あるいは強烈な向かい風などの抵抗が大きすぎて加速できない(回転が上がらない)状況を想像してみてください。その抵抗のエネルギーを、その時点でのエンジンの発生トルクに置き換えて考えることができます。因みに動力計を用いてエンジンの性能を測定するにはスロットル全開が原則です。そして後輪にローラーで負荷(抵抗)をかけて回転数を調整しその時の負荷の量(抵抗値)を読み取れば、そこからその回転数におけるエンジンのトルク(正確には後輪駆動力)が計算できるというわけです。

 <グラフ2>から読み取れるのは、エンジン回転数が低いほど、スロットル操作に対するエンジン発生トルクの変化が著しいということです。つまり低回転域ではわずかな操作でエンジンが発生可能なトルクの大半が出てしまうのです。 何故ならば、低回転域では吸気管内をほとんどふさいでいる状態のスロットルバルブが、わずかに開くだけでも吸入空気量が増大するからなのです。その後回転が上がるにつれてエンジンの発生する吸入負圧も増えていきますし、スロットルバルブの角度が変化してスロットルバルブ自体の抵抗も変わりますので、必ずしもスロットル開度と吸入空気量(エンジン発生トルク)が比例していないというわけです。
 付け加えますと特に高回転域では、空気取り入れ口から始まる吸気管の長さと形状・スロットルバルブも含めた吸気管内の抵抗・ラム圧などを調整し、限られた時間内にいかに冷たい空気をたくさん充填できるかがエンジン性能向上の鍵といえます。


呼吸が命〈2〉
 さて<グラフ2>はスロットル開度と吸入空気量の関係でしたが、それに<グラフ1>で見た2 種類のプーリーの性格を反映させたものが、それぞれ<グラフ3> | <グラフ4>です。<グラフ3>に非線形プーリーを用いた場合の、<グラフ4>に線形プーリーを用いた場合の、グリップ操作量に対する1サイクル当たりの空気量およびエンジン発生トルクをそれぞれ模式的に示します。つまりアクセルグリップを操作するとエンジンがどう反応するかを読み取ろうというわけです。どちらも車種により絶対量が異なるため単位をパーセントで示しました。<グラフ3><グラフ4>を比較すると、<グラフ3>の方がグリップ操作量に対してエンジン発生トルクの変化が穏やかであるため乗りやすいことが推定できます。例えば0〜50%のエンジン発生トルクをグリップで操作するのに、<グラフ3>の方がグリップ操作量を多く必要としますので、コントロールし易く、それに対して<グラフ4>の方がグリップ操作量が小さいため、グリップのわずかな動きにエンジンが過敏に反応してしまうのでギクシャクしやすくなり、コントロールしづらくなります。
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