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GUZZI Tempo <2>

仕事中流しっぱなしにしてあるラジオ文化放送の午前の番組で“えふぶんのいちゆらぎ”という耳慣れない言葉が聞こえてきて、最初はいったい何の話をしているのやらちんぷんかんぷんでした。


fuoco

その放送での内容は、注意して聞き始めたところから覚えている範囲でごくごく簡単に記すと「星のまたたき・火のゆらめきなど自然物のなかに“えふぶんのいちゆらぎ”が現れていて、人間(生物)はそのゆらぎがあるゆえにまたたき・ゆらめきを心地よく感じる。江戸小紋の模様も型を作る際に人間が引いた線には“えふぶんのいちゆらぎ”が現れているが定規や機械で引いた線にはそれが無く、見比べれば同じ柄でありながら人間が作ったもののほうに温かみを感じる。」というものだったのです。人間が心地よく感じる“ゆらぎ”なら・・・・・・モトグッチが隠し持つ楽しさの源にこの“ゆらぎ”が関わってはいまいだろうか。そう考えるようになったのです。

さてこの“1/f ゆらぎ”(えふぶんのいちゆらぎ)とは新しい言葉ではなく草分けであられる武者利光東京工業大学名誉教授が何十年も以前から研究されている現象なのです。以下に“1/f ゆらぎ”についていくつか箇条書きで記します。

*“1/f ”という法則を持つゆらぎが発見された
*“1/f ”とは振幅と周波数(frequency)が反比例しているということ
*生体の脳波から天体の運行まで自然界に普遍的に存在する
*発生のメカニズムは未解明でまた完全に予測はできない

*生体は人間に限らず動植物も“1/f ゆらぎ”に快適感を感じる
*手作りのものや音楽や声には“1/f ゆらぎ”が現れている
*大量生産品や機械加工されたものに“1/f ゆらぎ”は現れない
*街づくりや商品などに“1/f ゆらぎ”理論を生かすことが進んでいる

“1/f ゆらぎ”の特性、今まで確認できていること、いかにして測定&数値化しているかなど、調べていくと難しいながらも面白い話で溢れているのですが、素人が生半可に説明できないので、「なぜ」「どうやって」は置いておいて存在と効果について「そういうものなんだな」と認識だけしてください。なお効果について先の江戸小紋の例からの発展で連想してみるなら、CGアニメーションと手書きアニメーションの差を思い浮かべます。生き物を描いたとき、精巧で立体的に表現できるCGはリアルなのに冷たく、むしろ平面的でマンガ的な手書きアニメのほうが描かれているものの表情が生きて見えませんか。それにしても、プロがフリーハンドで引く線は素人には真似のできないほど真っ直ぐなのに、定規で引いた線と比べてみればやはり違うというところが面白い。相当に直線であるのに正確にはまだ直線ではなくて、見れば違いがある・・・・・・でもなんとなくわかります。“味”があるといいますか。私たちはよく「味がある」という表現をしますが、ひょっとするとその“味”というのは“1/f ゆらぎ”を指していたのかも知れません。


carburatore

“味”という表現はシチュエーションによって微妙にニュアンスが異なるとしても、ここまで使ってきた“面白さ” “楽しさ”に置き換えてよいでしょう。先の新旧モデルの話でも「面白い面白くないってなにが」と問われても漠として答えを絞りにくいかも知れませんが、“味”というキーワードを加えれば表現に具体性が出てきて、モーターサイクリスト同士でよく交わされるフレーズが思い出されます。たとえばですが、「スポークホイールには味がある」「空冷エンジンは味がある」「キャブレター車は味がある」など。そう、今まで話を進めてきて「キャブレターには味があるけどインジェクションには味が無いなあ」と連想を進めた方は多くいらっしゃるかもしれません。この稿は新旧を問わずモトグッチが発している楽しさを探し求めているのでキャブレターとインジェクションの差を論じる必要はないのですが、いずれ機械であるモトグッチに“ゆらぎ”があるのかという部分を考えてゆくのにヒントになるかもしれず、また「キャブレター車が好き」という言葉はメーカー問わず聞かれるセリフでもあるので、この“味”という曖昧でありながら皆が好きな表現にちょっぴりメスを入れておくのも必要なことかもしれません。

「キャブレター車のほうが好き」。これは電子制御化が進んでゆくなかで、もともと機械好きなモーターサイクリスト達の郷愁だと簡単に片付けるわけにはいかないでしょう。キャブレターには味がある、キャブレターのほうがクセがあって面白い、と言うだけの違いがインジェクションとの間にあるはずです。2者の乗り味の違いを単純に考えれば、それはスムーズさだと言えるでしょう。もっともモトグッチで言えばキャブレター車であった旧ルマン・シリーズと現行モデル達との間には20年近くの歳月が流れているので、インジェクション車の走りがスムーズでエンジンの反応が素早いといっても、それは燃料供給以外にもフライホイールやクランクシャフトが軽量化されているうえにピストン等を含めたバランシングも精度があげられているであろうことなど、一点を原因として語れない要素が存在します。細かい仕様変更など、メーカーは数値発表などせずに黙っていろんなことをやっていてユーザーが気づかぬうちに改良されているものなのです。そのあたりを一応確認しておいて、話をキャブレターとインジェクションに戻します。


fabbrica

四輪車に比べれば少しお粗末なモーターサイクルのインジェクション・システムですが、それでも細やかなマッピングでキャブレターでは実現できない燃料調整をしているのですから、スムーズでないわけがありません。ただ残念ながら排ガス規制に縛られているのでスムーズなだけでなく、乗り味としてはおとなしめなものにならざるを得ないようです。ちなみにモトグッチの場合は空冷2バルブで気筒あたりの排気量は500cc超なのです。ガスを絞ったために起こる力不足は排気量のアップで補いたい。かといってボアの広がった燃焼室内で不完全燃焼が起きれば排ガスも汚れるのです。そんなモトグッチが厳しいユーロ3規格をクリアしていることでも基本設計の卓抜さが知れるところです。

そしてインジェクションに比べてキャブレターの場合は、アトマイザーの通路の面積とジェットニードルの断面積の差、つまり2者の隙間を変化させることによってガソリンの流量をコントロールしているわけですが、エンジンによっては、いくつか用意されているジェットニードルの形状ではカバーし切れないトルクカーブのよどみができてしまったり、加速時には加速ポンプなど補助装置があるものの走行状況によっては補正しきれない苦しい場面も生じてしまったり。そして、吸入空気の方はスロットルバルブの底辺の形状からどうしても半円の形でベンチュリーの面積を増減させるしかありませんので、そこで乱流が生じて、また変化する負圧のなかでジェットニードルが揺さぶられたりすれば燃調も計算外の影響を受けはしまいか。結局のところ、そういった微細な変化が生じたときに乗り手は雑味を感じ取ってキャブレターの味わいとして表現するかも知れませんし、トルクカーブの凹凸をエンジンのクセとして面白みに感じているのでしょう。


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“味”の話ついでに再び脱線を許してもらって書かずにはいられないのが、“味”と“不調”を混同される方の存在です。たとえば左右のシリンダーの同調が狂っていると加速初期の振動が大きく出てそれを“力強さ”もしくは“モトグッチ特有の味”と勘違いされるのです。きちんと動くようになったら「つまらなくなった」と・・・。また、古きイタ車生活の味わいとして“始動困難さ”やら“しじゅうプラグチェック&そうじ”をおっしゃる方もいますが、少なくとも70年代後半以降のモトグッチであるなら、それらは単なる不調のあらわれに他なりません。




(続く 2/4) mas

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