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V65 再生記 <8>

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今回は小物ネタその1です。
 
まずはキャブレター。今回、エンジンが無い車体を買ったのでキャブレターはついていませんでした。イタリアで中古のエンジンを手配する際に中古キャブレターを買うこともできたのですが、それはせずに新調することとしました。
 
ありがたいことにデロルトは戦前のモデルについていたタイプでも新品を供給してくれています。ですからV65の時代なら余裕のよっちゃんなのです。
 
古いモトグッチを整備している方はあちこちいらっしゃると思いますが、覚えておいてください。もしキャブレターが欠品していたら新しいキャブレターを使うべきです。中古のキャブレターなんてアテになりません。キャブレターは精密機械です。ゴム類が硬化・劣化していたり、ジェットやニードルやアトマイザーが腐食していたり(これらは表面が曇って見える、ぐらいの腐食でも大きく走りに影響します)、本体ボディやスロットルバルブが磨耗していたり、これらを全てケアしなければならなくなったら新品を入手したほうが安上がりになると思います。
 
で、イタリアから届いた新品キャブレターですが、さっそくオーバーホールしました。念のためジェットなどのサイズが合っているかもチェックしつつ、洗浄し、ボディに目詰まりなどないかもチェック、すべて自分の眼でチェックしました。今回デロルトの工場から出たまんまの、ビニール袋に入った新品でしたが、ジェット類が薄汚れていました。
 
再生記<7>で新車納車整備に関連して書きましたが、キャブレターも要チェック箇所でした。新車は工場での完成検査でエンジンをかけて各部の作動チェックをしますので、キャブレターにガソリンが入ります。そしてそのまま梱包されて海外に出荷すると、時間経過とともにガソリンが揮発して添加剤などがフロートチャンバー内に残ってトラブルの原因となることがあったのです。
 
ちなみにEFI車であっても、モデルにもよりますが納車時にするべきチェックがあります。組み立て工場のラインでは「だいたい」の調整はしてありますが、やはり「慎重な」調整をする余地があるのです。モトグッチリパラーレでは必ずチェックしていましたし、他店で販売されたモトグッチでも整備に入った車輌はチェックしています。もちろん整備代金はいただきますが。


 
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続いて点火系。
エンジンを探すにあたり、ポイント点火車であることを条件の一つにしました。つまりポイントを付けることができるカムシャフトのついたモデルであることが求められます。650ccのモデルではラリオの後期型やフロリダのエンジンは対象外になりました。
トランジスタ点火もチョイスできるのに時代に逆行していますが、構成部品の総額が安いのと、出先のトラブル発生時にポイント点火のほうが対処できる可能性が高いのもありますが、やはりちょくちょくポイントの整備をするのがまったく苦にならない、むしろ楽しいし、ビシッと調整が決まったときの快調さが捨てがたく(笑) ポイント点火にしました。
 
上の画像は新しいコンタクトブレーカーを組むところです。プライヤーでスプリングを潰すように挟み込んでいますが、これは新品のコンタクトブレーカーのスプリングが強いためカム面への密着が強すぎてコンタクトブレーカーのヒールの磨耗が早くなったりするので、反発力を弱めるためにやっています。私がこの仕事を始めたころ教わったことですが、今でも変わりなく強いです。
 
下の画像に移ります。
アドバンスガバナーで進角をさせているのですが、2つのウェイトに2本ついているリターンスプリングは強さが異なるものが使われています。エンジンが回ると遠心力でウェイトが開くことによってカムの角度を変えて点火時期を進角させるのですが、ひとつのウェイトには軽いスプリングをつけて低回転からまず作動させ、高回転になると重いスプリングをつけたもうひとつのウェイトがゆっくり開き始めることによって、回転域に応じて進角を変化させているのです。
 
スプリングにガタが出ている、と勘違いしてスプリングがピンにかかる部分を曲げて設定された遊びをゼロにしてしまう方がいます。重いスプリングは低回転では軽いスプリングが伸びるのを邪魔しないように遊びを持たされていて、いくらかウェイトが開いたあとから作用し始めて、進角の後半をコントロールしているのです。
 
ポイントもアドバンスガバナーも、シャフトなどには丁寧にグリスを塗って組みます。特にアドバンスガバナーのカムが固着すると正常な進角ができずにエンジン不調の原因となります。ここをグリスアップするにはポイントをプレートごとはずさなければならないので手間ですが、面倒がらずに毎回やってあげてください。
 
また、コンタクトブレーカーのヒールにはシリコングリスを、回転するカム面とヒールのあいだにシリコングリスが入るように塗ってあげるのも大事です。ヒールが磨耗すれば点火時期はずれていきますし(多少の磨耗は避けられませんが、早期磨耗すればしょっちゅう点火時期調整をしなければならなくなります)、カム面が磨耗したらアドバンスガバナーを交換しなければなりませんが、ちなみにアドバンスガバナーは現在入手困難です。


 
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最後の画像はセルモーターのマグネットスイッチをオーバーホールしたところです。作動確認は良好だったのですが、後顧の憂いをなくすため一応開けてみます。コミュテーターとブラシは傷も汚れも無くキレイなものでした。
 
しかしマグネットスイッチは、スイッチ接点が荒れていました。画像はビフォー&アフターになります。
この接点が、まさにセルモーターに大電流を流し込むところなのです。始動時のトラブルで、スタータースイッチを押したときにセルモーターがガチャッと音をたてたにも関わらず回らないのは、バッテリーが弱いか、バッテリー端子の締め付け不足か、このマグネットスイッチの接点が荒れているのが主な原因です。
 
なお、リレーがカチッと作動したのにセルモーターがなにも反応しないのは上記接点の導通不良のほか、リレー自体とリレーからセルモーターまでの配線等が疑わしく、リレーの作動音すらしないときはスタータースイッチからリレーまでが疑われます。
 
ちなみにルマン1000の後期から使われ始めたヴァレオ製のセルモーターは、それまでのボッシュ製やルーカス製と違って遊星ギアを使うことで小さい電力で始動することが可能になりました。ただしその構造の違いから上記以外に、遊星ギアとモーター部を隔てる金属製カバーが外れてショートを起こすことも起きていますので、動作不良の際はチェックしてみてください。
 
 
mas

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