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V65 再生記 <6>

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エンジンの組み立てに入ります。一度組んだら次にいつお目にかかるかわからないクランクシャフトまわりから。
 
コンロッドをクランクシャフトへ組み付けます。メタル・コンロッドボルト、コンロッドナットは無条件で交換とします。メタルは1サイズしか供給されていませんが、クランクピンやジャーナル部の径が規定値内でしたのでそれを使います。もしピンやジャーナルの磨耗が生じて規定値以下になってしまったら、加工したうえでメタルを作らなければなりません。クランクシャフトを新調するよりは安いでしょうか?そもそもクランクシャフトこそがエンジンそのものなので、ここは換えたくないですね〜。
メタルを組み付ける際はコンロッドとメタルの間にオイルが入らぬよう、メタル裏にオイルをつけたりせず慎重にセットします。
 
ここで、メタルはポンと置いただけではコンロッドビッグエンドに収まらず浮いた状態になりますが、これはそのように「張り」を持たされているからです。指でやや強く押し込むと入りますが、それでもややコンロッドの合わせ面より端が少し飛び出てしまいます。これを「クラッシュハイト」といいます。
張りはメタル背面とコンロッドの密着を高めるために設けられています。クラッシュハイトもコンロッドボルトを締め付ければきっちりと収まり、張りと同様に密着を高める効果があります。先ほどのオイルをつけずに組んだことも同じ狙いがあります。それはメタルが受けた熱をコンロッドに効率良く逃がしたいからです。
 
エンジンをバラしたとき、メタルに磨耗や接触痕が認められないことはままあります。オイル管理が良いエンジン、適切な暖機をして、常用回転域が低くないエンジンがそれにあたるのかな?と思われます。ただ、見た目が傷んでいないと思って古いままのメタルを使うと、張りやクラッシュハイトが少なくなっているために、トラブルにつながる恐れ(熱伝導が悪いためメタルが高温になって損傷に至る)があるので注意してください。滅多に開ける場所ではないので適切な部品交換をしてください。
 
コンロッドビッグエンドを組む際にオイルを塗らずに置いたので、あとからオイルをさしているのが左下の画像です。クランクウェイトを上に持ってくるとオイルラインが見えて、そこにオイルをさすと斜め下にあるクランクピンにオイルが回ってくれます。
 
クランクケースの締め付けの際には内側の10mmのスタッドボルトと外側の8mmのスタッドボルトは当然ながら締め付けトルクが異なります。精密さが要求されるので合わせ面にガスケットは使わず、液体ガスケットを微量塗布します。このときオイルラインを塞がない注意も必要です。そして、外側の8mmスタッドボルト6本をケースに取り付けるときはネジロックを付けて"す"を通じたオイル漏れを予防しました。クランクケース合わせ面付近からオイルが漏れるという方は、この外から見える6本のスタッドボルトも疑ってみてください。


 
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続いてカムシャフトの装着。V系(ルマン系)とは違い、タペットにつばが付いているのでケースの内側からしか入りません。カムシャフトを抜かないとタペット交換はできないのです。タペット・カムシャフトにモリブデンを塗布して組みました。この時タペットをクランクケース内に落とすとルマン系とは違ってオイルパン側からは取り出せないので注意しなければなりません。
 
カムチェーンの装着はカムスプロケットがボルト留めなせいもあって比較的容易です。ここは当然のことながらポンチマークに留意して組みます。ところでこのシリーズ、P系エンジンのカムチェーンですが、ほとんどお目にかかりませんが、シリーズ(350ccと500cc)発売当初はダブルチェーンでした。が、その後シングルチェーンに変わっています。それはいつのことか、古いサービスインフォメーションを探してみたら1984年5月に来ていました。このときに650ccが発売されたと同時にダブルチェーンからシングルチェーンになったようです。
 
排気量もあがったのに、ダブルからシングルへ?
チェーンの性能が向上したのでしょうか?もともとダブルはオーバークオリティだったのか?いずれにせよ現行のV7シリーズまでそのままシングルチェーンが採用され続けています。
 
カムシャフトの奥に位置するホルダーにオイルプレッシャースイッチを装着したら安心です。このオイルプレッシャースイッチでカムシャフトがスラスト方向に動かないようにしています。ですから、スイッチを入れるまえに不用意にカムシャフトを回すとホルダーの穴がずれてしまうので注意しましょう。
スイッチの交換時も同様に注意しましょう。「あの〜、オイルプレッシャースイッチの交換しようとしたら新しいスイッチが入らないんですが・・・・・」とお電話をくださった業者さんもいらっしゃいます。


 
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コンロッドにピストンを装着します。マニュアルには60度で・・・と書いてありますが、ピストンヘッドだけでも少しの間熱湯に漬けて、スカートのあたりが手で「熱いな」という温度になれば、ピストンピンは指ですんなり入ります(もちろんモリブデン等塗りましょう)。わざわざ「ピストンヘッドだけでも」としたのは、こうしておけばリング溝など細部に水分が入らず、拭き取りに苦労したりせずに済むからです。
 
画像で使っている特殊工具は本来ピストンピンを抜くときに使うのですが、最後にピンを奥まで収めるのに叩いたりせずに済ませたかったので、これを使って適切な位置まで押し込みました。ピストンピンクリップも全て交換します。細かい部品ですが、ここまでやってわずかな金額のクリップをケチってトラブったらもったいないですから。
 
ピストンリングはよほど無理しなければ折れたりしませんが、慎重に溝に収めます。必ず上の面にマークがあります。そして、シリンダーに収める前に、合い口の位置を調整しておきます。
ピストンリングの合い口は、エンジンが稼動したらいずれ回ってしまうのだろうけど、少しでも良い結果が出るように考えて調整します。ピストンはわずかながらも首を振るので振れの大きい位置からは合い口を遠ざけてシリンダーへの影響を小さくできるように、3つのリングの合い口が近すぎないように、トップリングの合い口はプラグ(着火位置)からなるべく遠くに、などです。この結果1例として紹介しますが、今回はトップリング2時の方向、セカンドリング8時の方向、オイルリング4時の方向、としてみました。
 
いざシリンダーに収める前にはオイルとモリブデンをたっぷりリング溝にさして、よく馴染ませました。ちなみにピストン周辺の部品調達についてですが、同じ650であってもピストンピンの径が2種類あります。当然クリップも異なります。また同じ排気量同じボアであってもピストンリングのトップとセカンドが同じものを使っているものと、異なるリングを使っているものがあります。ご注意ください。


 
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ちょっと時系列は前後してしまうのですが、左画像はシリンダースタッドボルトにネジロック剤を付けているところ。ネジロック剤は嫌気性と言って、空気から遮断された状態になると硬化が始まるのです。画像ではボルト側だけに多く塗ると溢れてしまうだけなので、ケース側にも塗っておいて、ほどよくネジ全体にネジロック剤が回ってくれるよう工夫してみました。
 
ちなみにシリンダースタッドの場合も、スタッドボルトの固定だけではなく"す"によるオイル漏れの効果にも期待してのネジロック剤塗布です。ただこのシリーズのエンジンのシリンダースタッドは画像左の上2本のスタッドはヘッドの外には出てこないので問題ありません。が、画像右下の2本のスタッドからオイル漏れが起こると厄介なことになります。
 
画像右上はピストンリングを押さえつけてシリンダーに収められる特殊工具。これが無くても丁寧にやればリングは収められますが、スピードがまるで違います(笑)
そして右下の画像。ここはこのP系エンジンの弱点と言ってもよいでしょう。シリンダーの外側、この部分はヘッドを潤滑したオイルがクランクケースに戻ってゆく(重力により落ちてゆく)トンネルです。が、その外側の壁が少し薄過ぎました。オイル漏れを防ぐのに充分なガスケットの面積(幅と言いましょうか)が確保されていません。ここはオイルを圧送しているわけではないので、ダラダラ流れるような漏れ方はしないのですが、じわじわと漏れてくることがありますので、液体ガスケットを塗布しました。
せめてここにもう1本スタッドボルトを立てておいてくれたら、密着が増してオイル漏れを防げたのではと思います。

 
 
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シリンダーにヘッドを載せて、いざ締め付けは画像のロッカーアームセットと共締めになるのもこのエンジンシリーズの特徴です。左上の画像で2本のピンの磨耗の差がわかると思いますが、中古と新品というわけではありません。このピンはストレスのかかる方向が決まっていてそちらの面だけ磨耗が進むのです。
それは上か?下か?どちらかわかりますか?
下からプッシュロッドに押し上げられてピンを支点にバルブを押し下げる・・・・・ので、ピンの下側のストレスが大きいのです。ですからここをバラすチャンスがあれば、なるべく磨耗(当たり)が少ないほうを下にして組むようにして偏磨耗を防ぐようにしています。画像のピンは恐らく一度もはずされた事が無かったのでしょう。片面は完全にキレイな状態でした。
 
画像左下を見るとピンに設けられた切り欠きがあるのがわかると思います。これはオイルラインから送られたオイルがラバースリーブ内の通路とピンの切り欠きを通ってロッカーアームやバルブステムトップを潤滑していくためのものです。さきほど、ピンの上下の面を入れ替えていると書きましたが、切り欠きの向きにも注意して組まないと通路が塞がれてしまい潤滑不良の原因になります。
 
画像右はオイルパンを付ける直前。P系エンジンはオイルパンを開けなくてもオイルフィルターが交換できますが、皆さんが思ってらっしゃるよりここには多くのスラッジが貯まっています。たまにはオイルパンもはずして、ストレーナーも分解して掃除してもよいでしょう。
 
そしてV系エンジンとの大きな違いのひとつ、P系エンジンのクランクケースには隔壁「バッフルプレート」が設けられていて、画像をご覧の通りクランクシャフトが見えません。高速で回転するクランクシャフトにオイルパンのオイルが当たって抵抗になってしまうのを防ぐと同時に、クランクケースの剛性増も稼いでいるものと思います。
決してざんぶりと大量にかかってるわけでもなさそうなオイルの接触抵抗ですが、レーシングエンジンにはクランクウェイトの回転方向(オイルが当たる方向)を流線型にして抵抗を減らそうとしているものもあるほどです。


 
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シリンダーヘッドを組む場面は撮り忘れていました。エンジン完成間近でテンポよく作業していたのでしょう。また、この稿はずいぶん長くなってしまったようです。V系とP系の違いもあって、モトグッチメンテナンスブックでは触れられていないことなどご紹介しようと書いていたらダラダラ長くなってしまいました。
 
最後にクラッチを組みます。画像の通り、クランクシャフトの回転をロックする特殊工具、クラッチプレートのセンターを出しつつホールドする特殊工具はV系のものと異なります。ボルトは硬度が高い特殊ボルトが使われていますが、オーバートルクをかけると伸びてしまいます。気持ちとしてガッチリ締めたい部分ですが、オーバートルクは禁物です。伸びて重くなったボルトは使わない。締め付け途中でなかなかトルクがあがらない気配を感じたらボルトを切ってしまう前に作業をやめてボルトを交換する。注意してください。
 
エンジンが完成しました。フレームを載せたらグッとオートバイらしくなるでしょう


 
mas

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