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倍返しだっ!

昨年の新語流行語大賞は4語が年間大賞を受賞するという結果に終わりました。過去にも複数の大賞という年があったそうで、たとえば近年では2008年の「アラフォー」と「グー!」。思い出しましたか?授賞式に出た方の名前も覚えてますか?
 
全受賞記録がネットで見られます。なかなか面白いです。初期は新語に金銀銅賞、流行語に金銀銅賞と設定していたことを知りました。大賞は1語という規定はないようですが、今回のように絞りきれないのであれば金銀銅と特別賞くらいに順位をつけてもいいのではないかと感じました。そうでなければ錚々たる選考委員の方々にとっては簡単すぎる作業に違いありません。

ちなみに私なら「倍返し」を選びます。ほとんどテレビドラマを観ないのにあのドラマにかぎっては予告CMの迫力に釣られて初回から録画して観てしまったものですから、もっとも馴染みがあるというだけの理由で。ですが、この言葉を聞くうちに自分の仕事にあてはまるものがあると気づいたのでした。

いや、お客様への「復讐」ではありませんよ!(笑)



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昨年のことですが、そこそこ汚いルマン3を買ってくださったお客様がいらっしゃいました。リパラーレにおいでになったことがある方はご存知かと思いますが、リパラーレに置いてある中古車はあまり磨かれていません。それは私どもが磨いていないからであって本当はよくないことなのですが、日々の整備のほうに気が奪われてなかなかゆき届きません。そんな状態ですので「ではこれ買います」と言ってくださると、それだけ信用して店を選んでくださったのかと気持ちが引き締まるものです。

そういうときこそ「倍返し」をと思わずにいられません。このときは中古新規登録をしたので車検整備と等しい通常の整備があり、前オーナーが置いていらした期間が長かったことに対応する整備があり、さらにユニバーサルジョイントやカムチェーンテンショナーの交換などをいたしました。この場合、ユニバーサルジョイントは距離相応に作動が軽くなっていたものの「まだまだ要交換と言うには早いな」という感じでしたが、あのときのお客様のご様子を思いだすにつけ、「いずれはガタが生じて交換するようになるならいっそ今・・・」と中古車でありながら予防整備の面でも深い領域に踏み込んでいくことになってしまうのです。
ユニバーサルジョイントを換えるだけでなく、当然ジョイントをホールドするベアリングも換えなければなりませんし、ついでにこの一連の整備の際に姿を見せるトランスミッションのレイシャフトオイルシールも交換しました。なんだかこまごまと書いておりますが、これらのパーツってかなりのお値段になるんですよ!!書かずにはいられません。以前知り合いの酒造の社長さんが「いろんなメーカーで山田錦を使うとそれをラベルに書かずにいられないのは山田錦が涙がちょちょ切れるほど高いからなんですヨ」と話してくれたのを思いだしています(笑)

このお客様はそこそこ汚いルマン3を、その完成形も見られない状態でリパラーレが提示した金額を黙って払ってくださり、またこのルマン3がそこそこ傷んでおりましたのでかなりお待たせしましたが、これまた黙ってお待ちくださいました。それだけに私どもは借りを作ったような心持ちでしたので、それ以上のものをお返ししたつもりです。いままでに何人か同様に、店をまるまる信用した買いかたをされた方がいらっしゃいました。バッテリーがあがったままエンジンすらかからないモトグッチ、初めていらしてたまたまあったモトグッチを、わずかな会話のやりとりだけで買われる方がごくたまにいらっしゃいます。変な言いかたですが「人使いがお上手だなあ!」と感服するばかりです。あまりにも気持ちよく買ってくださると「あれもやっておこう」「ここもやっておこう」と手間も時間もかけてしまい、いつの間にか利幅を狭めていたなんてことがままあります。けれどもそういうときは「このお客様ならいずれまた整備にも持ってきてくださるだろうし」と率直に思えるものなのです。
実際中古車を売るのにろくに洗車もせず、エンジンの音も聞けない状態で「いかがですか?」なんて決して丁寧な販売方法ではないと思います。ですが、それでも現状の向こう側にあるものを見越していただける、私どもの仕事の質の面で信用してくださったお客様に感謝するばかりです。

お客様のことに関する内容を書くと、どのタイミングで書いてもどんなに一般的なこととして書いても、「あれは自分のことなんじゃないのか」と気に病まれる方が出てしまうのでは?と書きかけては止め、書きかけては止め、なかなか筆が進まないのですが今回はちょっと書いてみようと思います。
さまざまなご相談にお見えになるさまざまなお客様は当然ご自身の「こうしたい」というお気持ちがあってそれは構わないのですが、それに沿った応えが得られない場合はあまり耳を貸していただけない場合があります(話し方が悪いのが原因かもしれませんが)。さらに困りますのはすべてが解っている様子を示される方もいらっしゃってご説明を続けることもできないことだってあります。
わざわざお店までおいでいただいたのですから、こちらから情報を吸収しないままではもったいないと思いませんか?もちろん私どもも「こうされたほうがいいですよ」「こういうことはしてはマズイですよ(現行モデルで言えば燃調などの改変でしょうか)」と明確に言えることと、お客様の好みによって選択肢があることとを分けているつもりです。
 
ちなみに私の体験談ですが、実はだいぶ若いころに一時期アマチュア無線を一生懸命やっていまして、買い物は秋葉原の量販店にばかり行っていた私に近所の先輩がわりと近くの小さなお店を紹介してくれました。社長さんが一人でやっていらしてやはり最初のうちは敷居が高く感じたのを覚えています。そのうち新しいスピーカーが欲しくなって、自分の無線機専用にメーカーから発売されていたモデルを買いに行きました。ところが社長さんはメーカーが同じでも別のモデルを勧めてきたのです。
そのほうが「音質がいいから」と言われましたが、専用のスピーカーのほうが当然無線機にデザインも合わせてあってラックに並べるとカッコイイのです。若輩の私は小さな店内をウロウロしつつ迷いに迷い、ようやく30分ほど経ってから(笑)勧められたスピーカーを買うことにしました。すると社長さんがごく軽い語調で「おめでとう」と言ったのです。そのときは内心(へ?)といまひとつピンと来ませんでしたが、いまこういう仕事をしていて、あのときの社長さんの気持ちがちょっとわかるようになったかもしれません。

だからと言って、プロの言うことにはなんでもかんでも黙って従え!!と言いたいのではないと、あらためて一応かいておきます。ですが、ネット上のさまざまな情報などに翻弄されているユーザーもあまりにも多いのです。ユーザー情報だから信用できる、店の言うことには商売がかかっている、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、商売だからこそ一箇所で看板を掲げているからこそ真摯に対応したいと思う店もあるのです。ユーザーによる情報も良し悪しの基準が異なります。曰く「純正の○○より社外の○○のほうが調子良かった」そもそも純正の○○自体はきちんと作動していたのでしょうか?おまけに、古い雑誌でもご覧になったのでしょうかいまだに「○○はセッティング出ないから○○に換えないと」と断定的におっしゃる方までいらっしゃるのには正直閉口してしまいます。
見た目カッコイイからのカスタム、自分の使い方に会わせてのカスタムなら構いません。ですが性能面はウソはつけないと思っています。そもそも部品について「アッチよりコッチのほうが良い」という絶対評価は必ずしもできません。それぞれの性格付けやターゲットが異なるからです。解りやすいところでは、タイヤだってオンロード・オフロードの違いから、レース用・スポーツツーリング用とフィールドに会わせています。改造にしてもいろいろな経験を咀嚼し消化した方が次のステップとしてチャレンジするのはいいとして、それを経験値や環境が異なる人々まで同じように論じるのは問題です。
そもそもメーカーがチョイスした部品で構成されたオートバイが、結果的にそのメーカーのテイストを体現しています。せっかくイタリアの文化モトグッチをチョイスしてくださったんですから、まずはそのテイストを味わっていただけたらと思います。GUCCIのバッグにワッペン貼ったり刺繍したりは、たぶんなさらないでしょう?(笑)

少しノーマル非ノーマルの話に流れ過ぎました。すみません。ところで私も志賀も愛車を改造しております。闇雲に改造反対とは言うつもりもございません。

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中古車のほうに話を戻します。
ネット販売や遠隔地のショップからの購入など、さまざまな形態でオートバイを買えるようになりました。クレームに持ち込むこともままならない遠隔地売買なんて勇気があるなあと思う一方、玉数が少ないので致し方ない面があるとも思っています。しかしながら現実にはとんでもない状態の車両が多くて、それらがリパラーレに持ち込まれています。ピカピカな外観なのに中身が・・・・そんな笑えないギャグのようなことだって頻繁に起きているのです。売り手に悪意があってのことかどうかは私にはわかりません。「調子はまあまあいい」という評価とともに持ち込まれる中古モトグッチにいざ手をかけてみるとヒドイ状態だったとしても、調子の良し悪しは残念ながら売り手の方の主観なのですから。そこが「見極めてください(売り手を、お店を)」とお願いしている点なのです。
ちなみにネットで「リパラーレで整備済み」という説明がつけられたものも見ましたが、調べてみたら(でも整備したの○年も前だぞ)とか(でもこの方は最低限の整備しかされなかったぞ)ということもあります。それでも「整備済み」という文言は少なくとも「ウソ」ではないですよね(笑)

まあいろいろありますが、先にも書きましたが玉数が少なく選択肢がないので、最近ではお客様も腹が座ってらして「どうせちゃんと走らないだろう」と予測したうえで、事前にご連絡までいただいてよそで買ってきたモトグッチを持ち込んでこられます。整備をさせていただいて、しかも日本にきたモトグッチが1台復調することにそのお客様が投資してくださることになるのでとっても有難いのですが、出費は相当なものになります。これが「当たり前」になって「中古グッチには金がかかる」と言われてしまうのは悲しいです。
そんなにあれこれ言うならリパラーレで中古車を揃えとけ!と言われてしまいそうですが、中古車の在庫よりできる限り部品の在庫のほうを大事にしたいので申し訳ありません。

さて、話の始まりは「倍返し」でしたが、上記中古車のような初めて触る車両の整備においては、イヤでも労力が「倍」かかることだってあります。定期的に整備されてこなかった車両は隠しイベントが盛りだくさんです。ネジ1本錆付いていたら普通に外れるべき部品一つ外すのに思わぬ労力を費やされることになります。前に整備をした方がとんでもない切った張ったをしてしまっていることもありました。もっとも極端な例は・・・・・何をしたかったのか不明ですがクランクシャフトのオルタネーター接合面をリューターかなにかで盛大に削ってしまったものだってありました。高回転運動しなければならないのでわずかでも重心が狂ったらクランクシャフトはアウトです。振れが生じないように持ち運ぶだけでも注意しなければならない部品なのに。またオイル下がりの症状が出ているモトグッチが持ち込まれ、バルブとバルブガイドを交換するためにヘッドをバラしてみたら、なんとバルブガイドが指でグラグラ動いた!ということもありました。バルブガイド交換をして圧入に失敗したのでしょう。これはヘッド交換になりました。中古車を買って、さらに大整備を課せられて、こんな倍返しが起きない業界になるとよいのですが。

だいぶダラダラと、かなり愚痴っぽくなってしまいましたが、ようやく「倍返し」に再びつなげたところで筆を置こうと思います。
よくご質問いただくのですが、よそで買われたモトグッチも整備させていただいておりますのでご遠慮なくご相談ください。「アイドリングしないんですがこんなもんですか?」「加速はこんなもんですか?」というご質問も絶えませんが、モトグッチに罪はなく、それは未整備箇所を貯めこんだ前オーナーの負の遺産のようなものですので、当たり前のことをきちんとすればちゃんと治ります。ただその出費を新オーナーが担うことになるのがお気の毒に思えてなりません。でも信頼してお任せいただければ「倍」までいけるかどうかわかりませんしお客様にはわかりずらい部分だと思いますが、いただくお金以上のことをモトグッチに乗っけてお返しできるよう頑張っておりますので。



2014/04/18追記

以前書き込みいただいていたコメントを誤って消去してしまいました。もうしわけありません。

ハンドルネームもすでにわからないのですが、ルマン3を買ってくださったお客様、おっしゃる通り今回材料として使わせていただいたのはお客様のルマン3ではございませんでした。
でも同じ精神で整備させていただきお届けいたしました。元気に走っているとのことで大変うれしく思っております。  升本



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